子どもたちが安心して楽しめる多様性絵本タイム：読み聞かせ前の準備と環境設定
多様な子どもたちのための絵本時間
クラスには、様々な背景を持つ子どもたちがいます。文化や言語、家庭環境、体の違い、興味の方向性など、一人ひとりが独自の個性を持っています。このような多様性を尊重し、すべての子どもたちが安心感を持ちながら、絵本の世界に触れる時間を提供することは、保育において重要な役割を担います。
しかし、集団での読み聞かせにおいては、全ての子どもたちが絵本に集中し、内容を深く受け止めることは容易ではありません。特に多様なニーズを持つ子どもたちがいる場合、絵本の内容だけでなく、読み聞かせそのものが提供される「場」や「時間」への配慮がより一層求められます。子どもたちが安心して絵本の世界に入り込むためには、読み聞かせ前の準備と、絵本を読むための環境設定が鍵となります。
このコラムでは、多様性絵本の読み聞かせ効果を最大限に引き出すために、保育現場で実践できる事前準備と具体的な環境設定のポイントについてご紹介します。子どもたちの心に響く絵本時間を作り出すための一助となれば幸いです。
読み聞かせ効果を高めるための事前準備
読み聞かせの成功は、絵本を開く前から始まっています。事前の準備を丁寧に行うことで、当日の読み聞かせがよりスムーズになり、子どもたちの集中力を高めることができます。
1. 絵本の深い理解と声に出して読む練習
選んだ絵本の内容を保育者自身が深く理解することは最も基本的な準備です。物語の展開、登場人物の心情、込められたメッセージなどを把握します。特に多様性をテーマにした絵本の場合、描かれている「違い」や「共通点」が子どもたちにどう伝わるかを想定することが重要です。
そして、実際に声に出して読んでみてください。文章の抑揚、登場人物の声色、間の取り方などを試行錯誤します。読み聞かせの練習をすることで、物語の世界観をより豊かに表現できるようになり、子どもたちを惹きつける力が高まります。また、読みにくい言葉や、子どもたちに伝わりにくい表現がないかを確認し、必要であれば補足説明のアイデアを準備しておくことも有効です。
2. 子どもたちの状態と興味を把握する
読み聞かせを行う時間の子どもたちの様子を予測します。午前中の活動後か、午睡明けかなど、時間帯によって子どもたちの集中力や気分は異なります。その日のクラス全体の雰囲気や、特定の子どもの状態（疲れている、興奮しているなど）を把握しておくことで、読み聞かせの導入や進行を調整しやすくなります。
また、事前に子どもたちが何に興味を持っているか、最近どんな出来事があったかなどを踏まえて絵本を選ぶことも、子どもたちの関心を引き出す上で有効な場合があります。
3. 読み聞かせ以外の準備物
絵本の内容に関連する小道具や視覚教材、 BGMなどを準備することも、読み聞かせの体験をより豊かなものにします。例えば、物語に登場するアイテムの模型や絵、関連する音楽などです。これらは必須ではありませんが、子どもたちの五感に働きかけ、絵本の世界への没入感を深める効果が期待できます。ただし、これらが絵本の内容から注意をそらすことがないよう、使いどころを見極めることが重要です。
安心できる読み聞かせ空間の作り方
読み聞かせを行う環境は、子どもたちが安心して絵本に集中するために非常に重要な要素です。物理的な空間だけでなく、雰囲気作りも含まれます。
1. 静かで落ち着ける場所の選定
読み聞かせには、できるだけ騒音や視覚的な distractions（注意をそらすもの）の少ない場所を選びます。広すぎる場所よりも、子どもたちが一体感を感じられるような、ある程度囲まれた空間の方が落ち着く場合があります。決まった「読み聞かせコーナー」を設けることは、子どもたちに読み聞かせの時間を意識させ、心の準備を促す効果もあります。
2. 全員が見やすい座り方の工夫
子どもたちが絵本をよく見ることができるような座り方を工夫します。一般的な半円形やU字型は、保育者が子どもたち一人ひとりの表情を見ながら読むことができるため効果的です。絵本のサイズに合わせて、子どもたちとの距離を調整します。全ての子どもが絵の細部まで見られるように配慮することが、物語への関心を維持するために大切です。
3. 照明と温度の調整
明るすぎず暗すぎない、絵本が見やすい適切な照明にします。自然光が入る場所であれば、柔らかな光の中で読むのも良いでしょう。また、室温も快適な状態に保つことで、子どもたちは落ち着いて絵本に集中できます。
4. 絵本への導入と雰囲気作り
読み聞かせを始める前に、「絵本を見る時間だよ」「みんなで物語の世界に行こう」といった声かけで、子どもたちの意識を絵本へと向けます。急に始めるのではなく、少しの間を置いたり、静かなBGMを流したりするなど、落ち着いた雰囲気を作ることも有効です。子どもたちが「これから絵本が始まる」という期待感や安心感を持てるような導入を心がけます。
読み聞かせを起点とした活動への発展
多様性絵本の読み聞かせは、そこで完結するだけでなく、子どもたちの内面や相互理解を深める様々な活動へと発展させることができます。
読み聞かせを通して感じたことや考えたことを、絵や言葉、遊びを通して表現する時間を設けることは、子どもたちの自己表現を促します。絵本に登場する「違い」や「共通点」について、子どもたち自身の経験と結びつけて話し合う機会を作ることも、共感性を育む上で有効です。これらの活動を行う際にも、子どもたちが安心して自分の気持ちや考えを話せるような、受容的な雰囲気の環境を維持することが大切です。
まとめ
多様な背景を持つ子どもたちが共に過ごす保育現場において、絵本の時間は彼らの心に寄り添い、多様な世界を知るための貴重な機会となります。この時間をより豊かなものにするためには、絵本の内容選定に加え、読み聞かせを行うための入念な事前準備と、子どもたちが安心して集中できる環境設定が不可欠です。
絵本の深い理解、読み聞かせの練習、子どもたちの状態把握といった「準備」と、場所、座り方、照明、雰囲気作りといった「環境設定」は、特別な設備や予算をかけずとも、日々の保育の中で意識し工夫できる点が多くあります。これらの配慮を重ねることで、すべての子どもたちが絵本の世界を心ゆくまで楽しみ、多様性を受け入れ、自らを肯定する心を育む一助となることを願っています。