ひろがる世界、絵本の時間

保育現場で実践する多様性絵本の選び方と導入:予算を考慮した探し方と日常での活かし方

Tags: 多様性絵本, 保育実践, 絵本選び, 予算, 絵本活用

多様な子どもたちと共に歩む絵本選びの課題

今日の保育現場には、様々な背景を持つ子どもたちが集まっています。文化、言語、家族構成、身体的特徴、得意なことや苦手なことなど、一人ひとりが固有の「ちがい」を持っており、その多様性は年々大きくなっています。このような環境の中で、すべての子どもたちが自分を肯定し、他者を尊重する心を育むためには、どのような絵本を選び、どのように読み聞かせを行うかが重要な課題となります。

特に、限られた予算の中で、多様なテーマを網羅した絵本を揃えること、そして、複数の子どもたちを集団として惹きつけながら、個々の心にも寄り添う読み聞かせを行うことは、日々の実践において工夫が求められる点です。本稿では、これらの課題に対し、多様性絵本の具体的な探し方から、保育室の日常に無理なく取り入れ、子どもたちの豊かな育ちにつなげる方法について解説します。

なぜ多様性絵本が重要なのか:子どもの成長における意義

「多様性」とは、単に「違いがあること」を指すのではなく、その違いを認め、互いを尊重しながら共に生きる社会のあり方に関わる概念です。絵本を通じて多様性に触れることは、子どもたちにとって以下のような重要な意義を持ちます。

こうした学びは、小学校以降の社会生活においても、また将来にわたる人間関係においても、子どもたちの大きな力となります。

予算を考慮した多様性絵本の探し方と選び方の視点

多様性絵本の重要性は理解しても、限られた予算で多くの絵本を揃えるのは容易ではありません。ここでは、予算を考慮しながら多様性絵本を探し、保育現場で活用するための具体的な方法と選び方の視点を提供します。

予算内で探す具体的な方法

  1. 公共図書館の活用: 公共図書館は、多様なテーマの絵本が豊富に揃っており、予算を気にせず利用できる最も有効な手段です。定期的に訪れ、新刊や特集コーナーをチェックするほか、司書に相談してテーマに沿った絵本を紹介してもらうことも可能です。複数の図書館を組み合わせることで、さらに多くの絵本に出会えます。
  2. 中古絵本サイトやフリマアプリ: 状態の良い中古絵本が安価で手に入る場合があります。ただし、内容や状態を事前に確認することが重要です。
  3. オンライン書店の試し読み機能: 内容を一部読むことができる試し読み機能を活用し、購入前に絵本の雰囲気やテーマがクラスの子どもたちに合っているかを確認できます。
  4. 出版社や絵本関連サイトの情報: 多様性に関する絵本のリストや紹介記事を参考に、購入の優先順位をつけたり、図書館で借りる本の目星をつけたりすることができます。
  5. 保育士同士の情報交換: 同僚や他の保育園の保育士と情報交換することで、現場で評判の良い絵本や、特定のテーマに詳しい情報源を得られることがあります。絵本の貸し借りや回し読みも有効な手段の一つです。

多様性絵本を選ぶ際の視点

予算内で限られた数の絵本を選ぶ際には、以下の視点を考慮すると良いでしょう。

  1. 網羅性より深さ: 短期間で多様性のあらゆる側面を網羅しようとするより、一つの絵本で特定の多様性テーマ(例:家族の形、障がい、文化の違いなど)を深く掘り下げているものを選びます。
  2. 多角的な解釈が可能な絵本: 明確な多様性テーマを持たない絵本でも、登場人物の背景やストーリーから多様性に関する気づきを引き出せるものがあります。例えば、様々な動物が出てくる絵本からそれぞれの特徴(違い)を認め合うことの面白さを話し合ったり、引っ越ししてきた子の寂しさに寄り添う絵本から異文化への適応について考えたりすることができます。
  3. 子どもの発達段階に合っているか: 抽象的なテーマは、子どもたちの理解力に合わせて、より具体的で分かりやすい表現の絵本を選びます。登場人物に感情移入しやすいストーリーであるかも重要なポイントです。
  4. 表現の適切さ: 特定の属性に対するステレオタイプな表現や、不適切な描写が含まれていないかを確認します。出版社や著者の情報も参考にすると良いでしょう。
  5. 絵の力: 言葉だけでなく、絵が多様性を豊かに表現しているかも重要です。絵のスタイルや色使いが、子どもたちの興味を引きつけ、テーマへの共感を深めるかを見極めます。

集団を惹きつける多様性絵本の読み聞かせテクニック

多様性絵本は、テーマがデリケートであったり、子どもたちにとって馴染みが薄い内容を含んでいたりする場合もあります。集団読み聞かせにおいて、子どもたちの集中を持続させ、絵本の世界へ引き込み、多様性への気づきや共感を促すためには、いくつかの工夫が有効です。

  1. 事前の準備と絵本の把握: 絵本のストーリー、登場人物の感情、そして多様性に関するテーマを保育士自身が深く理解しておくことが不可欠です。読み聞かせ中に子どもから予期せぬ質問が出た際にも、落ち着いて対応できます。
  2. 声のトーンと緩急: 物語の展開に合わせて声のトーンや大きさを変え、重要な場面ではゆっくりと、楽しい場面では明るく読むなど、緩急をつけます。登場人物になりきって声を使い分けることも効果的です。
  3. 表情とジェスチャー: 絵本の絵と合わせて、表情や体の動き(ジェスチャー)を豊かに使います。登場人物の感情を表情で示したり、物語の場面をジェスチャーで表現したりすることで、視覚的に子どもたちの関心を引きつけます。
  4. 子どもの反応への応答: 子どもたちのつぶやきや質問、表情の変化に気づき、適切に応答します。「〇〇ちゃんはそう感じたんだね」「どうしてそう思ったのかな?」など、子どもの感じ方や考えを受け止め、対話を促すことで、受け身ではない読み聞かせになります。ただし、ストーリーの流れを妨げないよう、応答のタイミングと内容には配慮が必要です。
  5. 適切な「問いかけ」: 読み聞かせの途中や後に、絵本の内容や多様性に関するテーマについて、子どもたちが考えたり話したりしたくなるような問いかけを投げかけます。「もしあなたがこの子だったらどう感じるかな?」「この絵の人はどんな気持ちだと思う?」「あなたと主人公の同じところ、違うところはどこかな?」など、オープンエンドな質問が効果的です。答えを急かすのではなく、子どもたちの自由な発想や感じ方を大切にします。
  6. 読む場所や時間の工夫: 落ち着いて絵本に集中できる環境を整えます。騒がしい時間帯を避けたり、全員の顔が見えるように座る場所を工夫したりすることも、集団読み聞かせを成功させる重要な要素です。

絵本から広がる保育活動のアイデア

多様性絵本の読み聞かせは、単にストーリーを伝えるだけでなく、そこから様々な保育活動へ展開することで、子どもたちの学びや気づきを深めることができます。読み聞かせ後の活動は、絵本のテーマを子どもたち自身の経験や表現につなげる機会となります。

  1. 登場人物やテーマに関する描画・製作: 絵本の好きな場面や登場人物、または絵本で触れた多様性のテーマ(例:様々な家族の形、世界の食べ物など)を絵に描いたり、粘土や廃材で製作したりします。それぞれの作品について友達と話し合うことで、互いの感じ方や考え方の違いに気づくことができます。
  2. 言葉遊びや表現遊び: 絵本に出てくる印象的な言葉やフレーズを使って言葉遊びをしたり、物語の一部を簡単な劇にして表現したりします。登場人物の気持ちになって演じることは、共感力を育む活動となります。
  3. テーマに関連した調べ学習や体験: 絵本で触れた文化や国の食べ物を調べてみたり、障がいに関する絵本を読んだ後に、補助具を体験してみたりするなど、テーマに関連した具体的な活動を取り入れます。実際の体験を通じて、絵本の内容への理解を深めます。
  4. 「自分たちの違い」を見つける活動: 絵本のテーマを受けて、クラスの子どもたち自身の「ちがい」について話し合います。好きな色、得意な遊び、家族の人数など、身近な違いを認め合い、互いを肯定的に捉える機会とします。
  5. 絵本を参考にオリジナルの物語づくり: 読んだ絵本に触発され、子どもたち自身が多様な登場人物が登場する物語や、違いを認め合うストーリーを考え、絵に描いたり言葉にしたりします。

これらの活動は、必ずしも特別な準備を必要とするものではありません。日々の保育の流れの中で、子どもたちの興味や関心に合わせて柔軟に取り入れることが大切です。

日常の中で多様性絵本を活かす

多様性絵本を通じた学びは、特定の時間に限定されるものではなく、保育室の日常全体に溶け込ませることが理想的です。絵本の内容に関連する出来事が日常の中で起こった際に絵本を思い出したり、絵本で触れた視点を日々の保育の中での子どもたちのやり取りに活かしたりすることで、絵本の世界と現実世界が繋がり、学びがより確かなものとなります。

予算の制約がある中でも、公共図書館などを活用し、計画的に多様なテーマの絵本を選び、読み聞かせの技術を磨き、そして絵本から広がる活動を取り入れることで、子どもたちの豊かな感性、他者への理解、そして自分自身を肯定する力を育むことができます。日々の保育の中で絵本の力を最大限に引き出し、すべての子どもたちが自分らしく輝ける環境を築いていきましょう。