体の多様性とジェンダーを学ぶ絵本:自己肯定感と他者理解を育む読み聞かせ
多様な世界に生きる子どもたちのために
私たちの社会は多様な人々で構成されており、それは子どもたちの世界も同様です。クラスには、様々な身体的な特徴を持つ子どもたちや、いわゆる「男の子らしさ」「女の子らしさ」といった枠にとらわれない多様な表現をする子どもたちがいます。このような多様な子どもたちが、自分自身のことを肯定的に捉え、友達との違いを自然に受け入れ、互いを尊重し合う関係を築くためには、幼い頃からの「多様性の理解」が不可欠です。
特に、自分自身の体や性別に対する認識、そして他者のそれに対する理解は、自己肯定感や共感性を育む上で重要なテーマとなります。しかし、これらのテーマを子どもたちにどのように伝えたら良いのか、集団の中でどのように扱えば良いのかと悩まれる方もいらっしゃるかもしれません。
絵本は、子どもたちが多様な世界に触れ、自分や他者について考えるための素晴らしいツールです。この記事では、体の多様性やジェンダーといったテーマを扱った絵本の選び方、そして子どもたちの自己肯定感と他者理解を育む読み聞かせの工夫についてご紹介します。
なぜ絵本で「体の多様性」や「ジェンダー」を伝えるのか
子どもたちは日々の遊びや生活の中で、自分と友達の体の違いや、性別による行動の違いなどに自然と気づき始めます。この時期に、多様な体や性のあり方についてポジティブなメッセージを受け取ることは、以下のような点で子どもたちの健やかな成長を支えます。
- 自己肯定感の育成: 自分の体つき、髪の色、できること・できないことなど、自分自身の多様な特徴をありのままに肯定的に受け入れる力を育みます。
- 他者理解と共感: 友達の体の特徴や、いわゆる性別に当てはまらない様々な表現を理解し、共感する心を養います。「自分とは違う」ことを面白さとして捉えたり、多様性を尊重する姿勢につながります。
- 偏見やステレオタイプの解消: 特定の体つきや性別に対する固定的なイメージにとらわれず、一人ひとりの個性として多様性を捉える視点を培います。
- 安心感の醸成: 自分の感じ方や表現が多様な中の一つとして受け入れられるという安心感が得られます。
絵本は、これらのテーマを物語を通して分かりやすく、そして感情豊かに伝えることができます。直接的な説明だけでなく、登場人物の心情に触れることで、子どもたちは自然と共感性を育んでいきます。
体の多様性やジェンダーをテーマにした絵本の選び方
多様性をテーマにした絵本は数多く出版されていますが、保育の現場で活用する際にはいくつかの視点を持つことが重要です。
- 多様な「体」を描いた絵本: 体格、身長、髪質、肌の色、眼鏡や補聴器などの装具、障がいなど、様々な身体的な特徴を持つ人々が自然に描かれている絵本を選びましょう。特別なこととしてではなく、多様な個性の一つとして提示されているものが望ましいです。
- 多様な「性別」の表現を描いた絵本: いわゆる男の子らしい、女の子らしいといった固定観念にとらわれず、好きな色や遊び、服装などが多様であることを描いた絵本があります。また、性別の多様性そのものに示唆を与える絵本も存在します。特定の性別にとらわれずに「好き」を表現できることの楽しさや大切さを伝える内容が良いでしょう。
- 肯定的なメッセージ: 登場人物が自分自身の多様な特徴や表現を肯定的に受け入れている、あるいは周りの人々がそれを受け入れている様子が描かれているかを確認します。
- 年齢に合っているか: 子どもたちの発達段階に合わせた言葉遣いや表現の絵本を選びます。あまりに抽象的すぎたり、難解なテーマを扱いすぎたりするものは避けましょう。
- 複数のテーマを内包する絵本: 一冊の絵本の中に、身体的な特徴の多様性、様々な家族構成、文化的な違いなど、複数の多様性の側面が自然に描かれているものもあります。予算に限りがある場合でも、一冊の絵本から多角的な学びを引き出すことができます。
- 図書館の活用: 全ての絵本を購入することが難しい場合は、地域の図書館を積極的に活用しましょう。多様なテーマの絵本が揃っている場合があります。
具体的な絵本の例としては、様々な体の特徴を持つ動物たちが登場するもの、自分自身のコンプレックスを受け入れる物語、男の子がスカートを履きたがるお話、多様な家族構成を描いたものなどがあります。絵本を選ぶ際は、実際に手に取って内容を確認することが大切です。
集団での読み聞かせにおける工夫とテクニック
多様性に関するテーマを絵本で読み聞かせる際は、子どもたちの心に響き、考えるきっかけとなるよう、いくつかのテクニックを取り入れることができます。
- 事前の準備と理解: 読み聞かせを行う前に、絵本の内容を深く理解し、登場人物の気持ちやテーマについてご自身の中で整理しておきましょう。特にジェンダーなど個人的な価値観が影響しやすいテーマについては、ご自身の考え方が子どもたちに偏りなく伝わるよう意識することが重要です。
- 声のトーンと緩急: 物語の世界観に合わせて、声のトーンや読む速さを調整します。多様性に関する絵本では、登場人物の感情が丁寧に描かれている場合が多いので、その心情が伝わるよう抑揚をつけることが効果的です。
- 表情とジェスチャー: 絵本の登場人物の表情や動きを、ご自身の表情や簡単なジェスチャーで表現することで、子どもたちは物語により集中し、共感しやすくなります。
- 子どもたちへの問いかけ: 読み聞かせの途中や後に、子どもたちに優しく問いかけてみましょう。「この子、どんな気持ちかな?」「自分とこの子、違うところはあるかな?」「同じところはあるかな?」「どうしてそう思った?」といった問いかけは、子どもたちが物語の内容と自分自身、そして友達との関係を結びつけて考えるきっかけになります。ただし、子どもたちが自由に発言できるような雰囲気作りを大切にし、特定の意見を押し付けたり、発言を強制したりしないように注意が必要です。
- 「ちがい」への肯定的な視点: 体の違いや、性別による表現の違いなどが描かれている場合、「この子と〇〇ちゃんはここが違うね。どちらも素敵なところだね。」のように、「ちがい」を面白さや個性として肯定的に捉える言葉かけを意識します。否定的な表現や、特定の体や性別を標準とするような表現は避けます。
- 子どもたちの反応への配慮: 子どもたちの中には、自身の体や性別、家族構成などについてセンシティブな状況にある場合もあります。読み聞かせ中や後の子どもたちの表情、態度をよく観察し、不安や戸惑いを感じているような様子があれば、個別に寄り添ったり、無理にテーマを深掘りしたりしないなどの配慮が必要です。
集団での読み聞かせは、子どもたちが多様な視点に触れ、互いの考えを知る機会ともなります。絵本を通じて、誰もが大切な存在であり、多様な「ちがい」があるからこそ世界は豊かになるのだというメッセージを伝えましょう。
絵本から広がる活動アイデア
読み聞かせの後には、絵本の内容をさらに深め、子どもたちの表現を引き出すような活動を取り入れることができます。
- 「わたしのすきなところ」を描こう: 絵本の登場人物が自分自身を肯定的に捉えている様子に触発され、子どもたちが自分の体の好きなところ、得意なこと、やっていて楽しいことなどを絵に描いたり、言葉で表現したりする活動です。
- 「〜らしさってなんだろう?」を考えてみよう: 絵本の内容から「男の子らしさ」「女の子らしさ」といった固定観念について考えるきっかけが生まれたら、「〇〇くんみたいに力持ちなのもかっこいいね」「△△ちゃんみたいに優しいのも素敵だね」のように、様々な良いところが特定の性別だけのものではないことを具体的に示す活動を行います。子どもたちが考える「かっこいい」「かわいい」「素敵」などを自由に表現してもらい、多様な価値観があることを共有します。
- 「ちがい」と「おもしろさ」を見つけよう: 友達との外見や好きなことの違いを見つけ、それを「面白いね」「すごいね」と肯定的に捉える活動です。例えば、「〇〇くんは髪の毛がくるくるで素敵だね」「△△ちゃんは絵を描くのが上手だね」のように、一人ひとりの多様な良さに目を向ける機会を作ります。
- 物語の続きを考えよう/登場人物になりきろう: 絵本の登場人物が直面した状況に対して、自分ならどうするかを考えたり、登場人物になりきって表現したりすることで、共感性や多角的な視点を養います。
これらの活動は、絵本で触れたテーマを子どもたち自身の経験や表現につなげ、多様性をより身近なものとして捉えることを助けます。
まとめ
体の多様性やジェンダーといったテーマを絵本で扱うことは、現代社会を生きる子どもたちが、自分自身を受け入れ、他者を尊重する豊かな心を育むために非常に有効な手段です。適切な絵本を選び、子どもたちの反応を見ながら丁寧に読み聞かせを行い、そこから活動へと発展させることで、子どもたちの自己肯定感と他者理解を深めるサポートができます。
多様な子どもたちがいる保育現場で、絵本がそれぞれの個性が輝き、互いを大切に思える温かい環境を作る一助となることを願っております。