ひろがる世界、絵本の時間

集団読み聞かせを活性化する多様性絵本活用術:子どもが「参加」する仕掛け

Tags: 絵本, 読み聞かせ, 多様性, 保育

集団読み聞かせにおける多様性絵本の可能性

保育現場において、集団での読み聞かせは子どもたちの想像力を育み、言葉の世界を広げる重要な時間です。しかし、様々な関心や特性を持つ多くの子どもたちを惹きつけ、絵本の世界に没入させることは容易ではありません。特に、クラスに多様な背景を持つ子どもたちがいる場合、全ての子どもが自分事として絵本の内容を受け止め、共感を得られるような工夫が求められます。

この課題に対し、「多様性絵本」を用いた「参加型」の読み聞かせが有効なアプローチとなり得ます。多様性絵本は、性別、文化、障がい、家族構成など、様々な「ちがい」を肯定的に描き出しており、子どもたちが自分自身や他者について考えるきっかけを提供します。これに参加型の要素を取り入れることで、子どもたちは受け身ではなく、主体的に物語に関わることができ、多様なテーマへの理解をより深めることが期待できます。

本記事では、多様性絵本を用いて集団での読み聞かせを活性化し、子どもたちの積極的な「参加」を引き出すための具体的なテクニックと、絵本を核とした活動アイデアをご紹介します。

多様性絵本がもたらす「参加」への道筋

多様性絵本は、子どもたちにとって身近なようで、実は初めて触れるような「ちがい」の世界を描いています。この「新しい気づき」が、子どもたちの内側から「これはなんだろう」「どうしてこうなるのかな」といった自然な問いや関心を引き出しやすいため、参加型の読み聞かせと非常に相性が良いと言えます。

例えば、異なる文化の生活を描いた絵本であれば、「このごはん、見たことある人いるかな」「みんなの家のごはんと違うところは?」といった問いかけが、子どもたちの経験や知識と結びつき、発言を促します。車椅子を使用する登場人物の絵本であれば、「この子はどうやって移動しているかな」「何かお手伝いできることはあるかな」といった問いかけが、他者への想像力や配慮を育む対話につながります。

このように、多様性絵本は単に物語を聞かせるだけでなく、子どもたちが自身の経験や感情と照らし合わせ、他者との共通点や相違点に気づき、考えを巡らせるための豊かな土壌を提供します。

子どもが「参加」するための具体的な読み聞かせテクニック

集団での読み聞かせにおいて、子どもたちの参加を自然に促すためには、いくつかの具体的な「仕掛け」が有効です。以下に、保育現場で実践しやすいテクニックをご紹介します。

1. 読み聞かせ前の導入

絵本を開く前に、子どもたちの興味関心を惹きつける導入を行います。 * 表紙や裏表紙を見せる: 「この絵本、どんなお話だと思う?」「この絵には何が描いてあるかな?」など、絵から想像を膨らませる問いかけをします。多様性絵本の場合は、描かれている人物や背景について、先入観なく観察を促すような言葉を選ぶことが重要です。 * 簡単な手遊びや歌: 集中を促す手遊びや、絵本のテーマに関連する簡単な歌を取り入れ、場の雰囲気を和ませます。 * 小道具の活用: 絵本の内容に関連する簡単な小道具(例:食べ物の絵本なら簡単な模型、動物の絵本なら鳴き声の音源など)を少しだけ見せることで、期待感を高めます。

2. 読み聞かせ中の工夫

絵本を読み進める中で、子どもたちの五感を刺激し、応答を促します。 * 声のトーンと緩急: 登場人物の気持ちや場面の雰囲気に合わせて声色を変えたり、重要な場面でゆっくり読んだり、楽しい場面でリズムよく読んだりすることで、子どもの感情移入を助けます。 * 表情とジェスチャー: 登場人物の感情や動きを表情や身振り手振りで表現します。子どもたちは視覚的な情報から多くのことを読み取ります。 * 視線の活用: 特定の子どもだけでなく、全体に公平に視線を配ることで、全ての子どもに語りかけているという感覚を与えます。 * 適切なタイミングでの「問いかけ」: 物語の節目や、子どもたちが「?」と感じそうな場面で、短い、答えやすい問いかけを挟みます。「この子、どんな気持ちかな?」「次に何が起こると思う?」など、想像や共感を促す問いかけが効果的です。すぐに答えが出なくても、考える時間を保障します。 * リフレインや擬音語の活用: 絵本に出てくる繰り返しの言葉や楽しい擬音語は、子どもたちが声に出して参加しやすい部分です。「〇〇って言ってたね!みんなで言ってみようか?」のように促します。 * 簡単な身体表現や動作: 絵本の中に特定の動きが出てくる場合(例:走る、飛ぶ、泣くなど)、安全に配慮しつつ、その場で簡単なジェスチャーを促すこともできます。「この子、ぴょーんって飛んだね!みんなも一緒にぴょーんとしてみよう!」 * ページをめくる役割の交代: 集団の人数や状況に応じて、数人ずつ交代でページをめくる役割を担ってもらうことも、参加意識を高めます。

3. 読み聞かせ後の応答

物語を読み終えた後も、余韻を大切にし、子どもたちの内にあるものを引き出します。 * 自由な感想の共有: 「このお話を聞いて、どんな気持ちになったかな?」「〇〇の場面が面白かった人?」など、子どもたちが自由に感想を言える時間を作ります。答え方に正解はないことを伝え、どんな発言も肯定的に受け止めます。 * 絵本の内容に関する対話: 絵本で描かれていた多様なテーマについて、子どもたちの理解に合わせて簡単な言葉で補足したり、疑問に答えたりします。「ちがい」について話す際は、優劣ではなく個性として捉えられるような言葉遣いを心がけます。

予算を考慮した多様性絵本の活用

予算に制約がある中でも、多様性絵本を効果的に活用する方法はあります。 * 図書館や地域施設の活用: 公共図書館や地域の絵本を借りられる施設を積極的に利用します。予約システムやリクエスト制度を活用すれば、様々なテーマの絵本に触れる機会が増えます。 * 一冊の絵本から多角的に読む: 一冊の絵本が持つ可能性を最大限に引き出します。例えば、家族の形を描いた絵本であっても、登場人物の感情、好きな遊び、困っていることなど、多様な側面に着目して読み聞かせたり、読み聞かせ後の対話につなげたりすることで、様々な気づきを促すことができます。 * 手作りアイテムの活用: 絵本の世界を広げるための小道具は、必ずしも高価なものである必要はありません。廃材や身近にあるもので手作りすることで、子どもたちと一緒に準備する時間も楽しめます。

絵本から広がる活動アイデア

読み聞かせで盛り上がった気持ちや気づきを、さらに深める活動につなげます。 * 絵を描く、作る: 絵本の好きな場面や登場人物、または絵本から想像した自分自身の姿などを自由に絵に描いたり、折り紙や粘土などで形にしたりします。 * ごっこ遊び: 絵本の物語や登場人物になりきって遊ぶことで、物語の世界や登場人物の気持ちを追体験します。 * テーマに関連した体験: 絵本で描かれていたテーマ(例:異なる国の食べ物、季節の行事など)に関連する簡単な体験活動を取り入れることで、絵本の内容をより具体的に理解します。 * 簡単な発表や紹介: 自分が好きな絵本の場面や登場人物について、友達に紹介する時間を設けることで、自分の感じたことや考えを表現する機会を作ります。

まとめ

多様性絵本を用いた参加型の集団読み聞かせは、子どもたちが多様な世界に触れ、自分自身や他者への理解を深めるための有効な手段です。声のトーンやジェスチャーといった基本的なテクニックに加え、子どもたちの応答を引き出す問いかけや、物語の世界を広げる活動アイデアを組み合わせることで、読み聞かせの時間はより豊かで実りのあるものとなります。予算の制約がある場合でも、工夫次第で様々な絵本に触れ、子どもたちの多様な学びをサポートすることが可能です。これらの実践が、全ての子どもたちにとって安心できる、居心地の良い保育環境づくりに貢献することを願っています。