季節イベントを彩る多様性絵本:保育現場での選び方と読み聞かせの工夫
はじめに
保育現場では、一年を通して様々な季節行事やイベントが行われます。これらの行事は子どもたちにとって楽しみな時間であると同時に、社会性や文化に触れる貴重な機会となります。しかし、クラスには多様な背景を持つ子どもたちがいます。行事の過ごし方一つをとっても、家庭や地域によって慣習が異なる場合がありますし、特定の行事に参加できない子どももいるかもしれません。このような状況で、どのようにすれば全ての子どもが孤立することなく、行事を通じて多様性について自然に学び、互いを理解し合える環境を作ることができるでしょうか。
絵本は、子どもたちの多様な経験や文化、価値観に触れるための素晴らしいツールです。特に季節イベントに合わせた絵本を選ぶことで、行事への理解を深めながら、同時にクラスの多様性を肯定的に捉える機会を創出できます。この記事では、季節イベントに合わせた多様性絵本の選び方と、集団の子どもたちが絵本の世界に引き込まれ、多様性への気づきを深めるための読み聞かせテクニック、さらに読み聞かせから広がる活動アイデアをご紹介します。
季節イベントと多様性:絵本が果たす役割
季節の行事やイベントは、地域や文化に根ざしたものが多くあります。お正月、節分、ひな祭り、七夕、夏祭り、ハロウィン、クリスマスなど、それぞれの行事には独特の歴史や慣習が存在します。
現代の保育現場においては、子どもたちの背景も多様化しています。家庭環境、文化、信仰、地域の慣習など、子ども一人ひとりが持つ「当たり前」は異なります。例えば、特定の宗教を信仰している家庭ではクリスマスを祝わない、片親の家庭では父の日や母の日の捉え方が異なる、特定の食材を食べられない子どもがいる、など、様々なケースが考えられます。
このような状況で絵本を活用することは、以下のような点で重要です。
- 多様な視点の提示: 特定の行事について、一つの文化や家庭の視点だけでなく、様々な捉え方や過ごし方があることを絵本が示してくれます。
- 共感と理解の促進: 自分とは異なる経験や文化を持つ登場人物の気持ちに触れることで、子どもたちは他者への共感や理解を深めることができます。
- 安心感の醸成: 自分の家庭のやり方や文化が絵本の中で肯定的に描かれているのを見ることで、子どもは安心感や自己肯定感を抱くことができます。
- 対話のきっかけ作り: 絵本を読んだ後に「〇〇ちゃんの家ではどうかな?」「この絵本のクリスマスの過ごし方と違うところはあるかな?」といった問いかけをすることで、子どもたちが自分の経験を話し、互いの違いを知る自然な対話が生まれます。
季節イベントと多様性絵本を結びつけることは、単に行事を楽しむだけでなく、子どもたちが互いの「ちがい」を認め合い、共に生きる社会の基礎を育むことにつながります。
季節イベントに合わせた多様性絵本の選び方
季節イベントに合わせて多様性絵本を選ぶ際には、いくつかの視点を持つことが大切です。予算に限りがある場合でも、工夫次第で多様なテーマに触れることができます。
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行事のテーマと多様性の側面を結びつける:
- お正月: 家族構成の多様性(様々な形の家族で過ごすお正月)、地域の慣習の違い。
- 節分: 鬼に対する多様な感情(怖いだけでなく、かわいそう、友達になりたいなど)。
- ひな祭り: ジェンダーの多様性(男の子と女の子それぞれの成長、性別にとらわれない願い)。
- クリスマス: 世界の多様な祝い方、宗教や信仰の違い、家族の多様性。
- 夏祭り/地域のお祭り: 地域の文化や歴史、様々な役割を持つ人々。
- 運動会/発表会: 得意なことや表現方法の多様性、参加の多様性。
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多様な視点を持つ絵本を選ぶ:
- 一つの行事を、異なる文化や背景を持つ子どもたちの視点から描いた絵本。
- 多数派とは異なる経験をしている登場人物に焦点を当てた絵本。
- ステレオタイプに陥らない表現をしている絵本。
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年齢や発達段階に合っているか:
- 抽象的な概念を理解するのが難しい幼いクラスでは、視覚的に分かりやすく、登場人物の感情に寄り添えるような絵本を選びます。
- 年長クラスでは、行事の背景にある歴史や文化、社会的な側面に少し触れる絵本や、異なる視点からの描写が多い絵本も適しています。
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表現の適切さ:
- 特定の文化や人々を否定的に描いていないか、偏見を助長する表現がないかを確認します。
- デリケートなテーマを扱う場合は、子どもの理解度に合わせて丁寧なフォローができる内容であるか検討します。
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予算の制約を考慮した工夫:
- 公共図書館の活用: 多様な絵本が揃っており、気軽に借りることができます。予約システムを活用すると、希望の絵本を見つけやすくなります。
- 一つの絵本から多様な要素を読み取る: 例えば、家族が出てくる絵本なら、その家族の形や役割に注目するなど、本来のテーマ以外の多様性にも焦点を当てて読み聞かせを行います。
- 読み聞かせボランティアや地域資源との連携: 絵本を寄贈してもらったり、読み聞かせをお願いしたりすることで、多様な絵本に触れる機会を増やせます。
季節イベント時の集団読み聞かせテクニック
季節イベントの時期は、子どもたちの気持ちが高まったり、落ち着きがなかったりすることもあります。そのような中でも、多様性絵本の読み聞かせを効果的に行うためのテクニックをご紹介します。
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事前の準備:
- 絵本の内容を十分に理解し、多様性に関するどのようなメッセージが込められているかを把握しておきます。
- 子どもたちの背景を考慮し、特に配慮が必要な部分(特定の文化や慣習に触れる箇所など)がないか確認します。必要に応じて、事前に保護者に共有するなどの配慮も検討します。
- 絵本の世界観を共有しやすいよう、部屋の環境を整えたり、関連する物を準備したりします。
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導入の工夫:
- 行事への期待感を高めつつ、「もうすぐ〇〇があるけれど、みんなの家ではどうやって過ごすのかな?」など、多様な過ごし方がある可能性に触れる導入をします。
- 絵本の表紙を見せ、「この絵本には、みんなとは違うかもしれないけど、こんな過ごし方をする人が出てくるよ」などと、多様性への意識を柔らかく向けさせます。
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読み聞かせ中のテクニック:
- 声のトーンと緩急: 行事のワクワク感や、多様な登場人物の気持ちに合わせて、声のトーンや読む速さを調整します。静かな場面ではゆっくりと、賑やかな場面では少し明るくするなど、絵本の雰囲気を伝えます。
- 表情とジェスチャー: 絵の中の登場人物の感情や行動を、自身の表情やジェスチャーで豊かに表現します。これにより、言葉だけでは伝わりにくいニュアンスや多様な感情を子どもたちが感じ取りやすくなります。
- 間合いの取り方: 子どもたちが絵をじっくり見たり、内容を考えたりする時間を確保するために、適切な「間」を取ります。特に多様性に関する描写があった場面では、子どもたちの反応を見る時間を作ることも有効です。
- 適切な問いかけ: 「この子、どんな気持ちかな?」「みんなの家と違うところは何かな?」「もしこの子がクラスにいたら、どんなことを教えてあげたい?」など、開かれた質問をすることで、子どもたちの思考を促し、対話を促します。ただし、問いかけは自然な流れで行い、答えることを強制しないようにします。
- 視線の配り方: 集団全体に目を配り、全ての子どもが絵本を見たり、話を聞いたりできているか確認します。必要に応じて、座る位置や絵本を見せる角度を調整します。
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読み聞かせ後のフォロー:
- 絵本の内容について、子どもたちが感じたこと、気づいたことを自由に話せる時間を作ります。「こんなところが面白かった」「この子、自分と似ていると思った」「違うと思ったけれど、そういう過ごし方もあるんだ」など、多様な感想を受け止めます。
- 必要に応じて、多様性に関する内容について補足説明をしたり、誤解を解いたりします。
読み聞かせから発展する活動アイデア
絵本の読み聞かせは始まりにすぎません。そこから活動を発展させることで、子どもたちの多様性への理解をさらに深め、行事をより豊かな経験にすることができます。
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絵本に登場する行事の追体験:
- 絵本で描かれた行事の準備や飾り付けを、子どもたちのアイデアを取り入れながら行います。例えば、世界のクリスマスの絵本を読んだら、各国の飾りを作ってみるなど。
- 絵本に出てくる行事食に似たものをクッキング活動で作ってみることで、文化の違いを五感で感じることができます。
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「わたしの行事」発表会:
- 子どもたちに自分の家や地域で行われる行事の様子を絵に描いたり、言葉で説明したりしてもらいます。
- 描いた絵や話した内容を友達と共有する時間を設けることで、互いの家庭や地域の多様な過ごし方を知ることができます。保育者は、否定的な評価をせず、全ての子どもの発表を肯定的に受け止めます。
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絵本を題材にした劇遊び:
- 絵本の登場人物になりきり、物語を追体験します。多様な登場人物の気持ちや行動を演じることで、共感力や表現力を育みます。
- 絵本の続きを考えたり、登場人物の設定を変えてみたりすることで、子どもたちの創造性を引き出し、多様な視点から物事を捉える練習になります。
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テーマを深める話し合い:
- 絵本の内容をもとに、「もし自分がこの登場人物だったらどう感じる?」「どうしてこの子はこう思ったんだろう?」といった深い問いかけをします。
- 行事に関連する様々なテーマ(家族、文化、地域、季節の変化など)について、子どもたちの経験や考えを自由に話し合います。
これらの活動を通じて、子どもたちは絵本で触れた多様性をより身近に感じ、自分自身の多様性や周りの人々の多様性について自然に考えを巡らせるようになります。
まとめ
季節イベントは、子どもたちが社会や文化に触れる絶好の機会です。この機会に多様性絵本を取り入れることで、行事の楽しさを共有しながら、クラスの子どもたちが持つ多様な背景への理解を深め、互いを認め合う心を育むことができます。
適切な絵本選び、子どもたちの心を引きつける読み聞かせテクニック、そして読み聞かせから発展する活動は、子どもたちが自分自身と他者の多様性を肯定的に捉え、豊かな人間関係を築いていくための重要なステップとなります。予算や時間の制約がある中でも、工夫を凝らしながら絵本を活用し、子どもたちの「ひろがる世界」を支えていただければ幸いです。