読み聞かせ中の多様な子どもの反応:共感と成長を促す対応とテクニック
集団読み聞かせにおける多様な反応への理解
集団で絵本を読み聞かせる時間は、子どもたちにとって物語の世界に触れ、様々な感情や考えを巡らせる大切な機会です。しかし、その時間における子どもたちの反応は、一人ひとり大きく異なることがあります。ある子どもは集中して静かに聞き入る一方で、立ち歩いたり、関係ない話を始めたり、予期せぬ質問を繰り返したりする子どももいるでしょう。こうした多様な反応は、読み聞かせを行う側にとって、どのように対応すればよいか迷う場面かもしれません。
子どもたちの多様な反応は、その子の個性、発達段階、興味、経験、そしてその日の体調や気分など、様々な要因が複雑に絡み合って生まれます。また、文化的な背景や家庭環境の違いも、絵本の内容に対する感じ方や表現方法に影響を与えることがあります。これらの反応は、子どもたちがそれぞれの内側で物語と向き合い、自分なりの方法で絵本の世界を感じ取っている証拠でもあります。これらの多様な反応を否定的に捉えるのではなく、子どもの内面を理解するための一つの表れとして受け止めることが、読み聞かせの質を高める第一歩となります。
この記事では、読み聞かせ中に見られる子どもたちの多様な反応に寄り添い、すべての子どもが安心して絵本の世界を楽しめるように促すための視点と具体的なテクニックを紹介します。これらの対応を通じて、子どもたちの共感力や自己肯定感を育み、豊かな成長に繋げることを目指します。
多様な反応を受け止める基本姿勢
子どもたちの多様な反応に対応する上で最も重要となるのは、読み聞かせを行う側の基本的な姿勢です。
- 受容的な姿勢: どのような反応であっても、まずは否定せず受け止めることです。立ち歩く、声を発するなど、一見読み聞かせの妨げになるような行動も、その子にとっては意味のある表現である可能性があります。頭ごなしに叱るのではなく、「何か気になることがあるのかな」と子どもの内面に思いを馳せる姿勢が大切です。
- 丁寧な観察: 子ども一人ひとりの表情、視線、体の動きなどを注意深く観察します。言葉にならないサインから、絵本の内容に興味を示しているのか、それとも別の何かに気を取られているのか、あるいは不安を感じているのかなどを読み取ろうと努めます。
- 個別への意識: 集団に対して読み聞かせを行っていても、意識は一人ひとりの子どもに向けます。特定の反応を示す子どもには、アイコンタクトを送ったり、後でそっと声をかけたりするなど、個別の関わりを持つことを忘れません。
これらの基本姿勢は、子どもたちが「自分の感じ方や表現が受け入れられている」という安心感を持つことにつながり、絵本の世界への関心を深める土台となります。
多様な反応を活かす具体的な読み聞かせテクニック
子どもたちの多様な反応に寄り添い、集団での読み聞かせをより豊かな時間にするために、保育現場で実践できる具体的なテクニックをいくつかご紹介します。
-
事前の準備と想定:
- 絵本を読む前に、内容を十分に読み込み、物語のポイントや、子どもたちが疑問に持ちそうな箇所、感情移入しそうな場面などを把握しておきます。
- 想定される子どもの反応(特定のキャラクターへの強い反応、馴染みのないテーマへの戸惑いなど)を予測し、それに対する簡単な声かけや補足説明を準備しておくと、実際の反応があった際に落ち着いて対応できます。
- 特定の刺激に敏感な子や、じっと座っているのが難しい子がいる場合、その子にとって安心できる場所を読み聞かせスペースの近くに用意したり、事前に声をかけて絵本の楽しみ方を伝えたりするなどの配慮も有効です。
-
絵本提示とペースの工夫:
- 絵本を子どもたち全員が見やすいように、適切な角度と高さで持ちます。ページのめくり方や、絵を見せる「間」も重要です。早いペースでは情報を処理しきれない子どももいれば、遅すぎると飽きてしまう子どももいます。子どもたちの全体の様子を見ながら、ペースを調整します。
- 物語の展開に合わせて、声のトーンや速さを変化させますが、これも子どもの反応を見ながら行います。急に大きな声を出すと驚いてしまう子や、小さな声では聞き取りにくい子もいるため、意識的にメリハリをつけつつも、安定したトーンを基本とすると良いでしょう。
-
「問いかけ」と「応答」の引き出し方:
- 物語の途中や読み聞かせ後に、子どもたちに問いかけをすることで、絵本への関心を深め、多様な意見や感想を引き出すことができます。「この後どうなると思う?」「この絵を見てどんな気持ちになった?」など、答えが一つではないオープンエンドな質問が効果的です。
- 子どもからの応答があった際は、その内容に関わらず、「〇〇ちゃんはそう感じたんだね」「△△くんは不思議に思ったんだね」など、一度受け止める言葉を返します。他の子どもたちにも「みんなはどうかな?」と問いかけることで、多様な考えがあることを共有できます。
- 質問や発言が少ない子どもに対しては、「静かに聞いてくれてありがとう」と肯定的な言葉をかけたり、後で個人的に「あの場面、どうだった?」と聞いてみたりするなど、様々な方法で関心を寄せます。
-
予想外の反応への対応:
- 物語と直接関係のない質問が出た場合、すぐに話をそらさずに、まずは「〇〇が気になったんだね」と受け止めます。その後、「今は絵本の時間だから、このお話を聞いてからでもいいかな?」と伝えたり、「そのこと、後で教えてくれる?」と約束したりするなど、状況に応じて対応します。
- 立ち歩いたり、他のことに気を取られたりしている子どもに対しては、無理に座らせるのではなく、そっと隣に行き、絵本を一緒に見たり、物語の面白そうな部分を耳元で囁いたりするなど、絵本の世界に再度誘うように促します。
- 特定のキャラクターや場面に強いこだわりを示す子どもに対しては、その興味を認めつつ、「この場面の〇〇くんは、こんな気持ちだったのかな?」などと、物語全体や他の要素にも目を向けられるような言葉かけを試みます。
-
安心できる環境づくりと多様な参加の許容:
- 読み聞かせの場所は、子どもたちが落ち着いて過ごせる環境を整えます。座布団やクッションを用意したり、照明を少し落としたりするなど、リラックスできる雰囲気作りが有効です。
- すべての子どもが椅子に座って静かに聞くことを強要するのではなく、寝転がって聞く、保育者の近くに来て絵本を一緒に持つ、少し離れた場所で遊んでいるが耳は傾けている、など、多様な参加の形を許容します。重要なのは、子どもが絵本の世界に何らかの形で関わっていることです。
- 読み聞かせ中の「静かにしなさい」といった否定的な指示を減らし、代わりに「絵本のお話に耳を澄ませてみようね」「面白いところを見つけようね」など、肯定的な言葉かけを増やします。
読み聞かせから広がる活動への展開
読み聞かせの時間は、絵本の世界に触れるだけでなく、そこから様々な活動へと広げ、子どもたちの多様な表現や学びを引き出すきっかけとなります。
- 絵本の感想や気づきの共有: 読み聞かせ後、感じたことや疑問に思ったことを自由に話せる時間を設けます。「どこが面白かった?」「誰の気持ちに寄り添いたいと思った?」など、対話を通じて互いの感じ方の違いに気づき、多様性を肌で感じることができます。
- 表現活動: 絵本に出てくる登場人物や好きな場面を絵に描いたり、粘土やブロックで作ったりします。子どもたちの内にあるイメージを形にする活動は、言葉だけでなく多様な表現方法を尊重することにつながります。
- ごっこ遊び: 絵本の物語や登場人物になりきって遊ぶことで、物語の世界を追体験し、他者の立場になって考える機会が生まれます。役割分担やアイデアを出し合う中で、自然と多様な考えを受け入れる経験をします。
- 関連する調べ学習: 絵本に登場する動物、植物、場所、文化などについて、図鑑やインターネットで調べてみる活動です。絵本で得た興味関心を深め、知識を広げると同時に、異なる情報源から多様な視点を得る学びとなります。
- 物語の続きを想像する: 「もしあの後、〇〇だったらどうなったかな?」など、物語の続きや別バージョンを子どもたちと一緒に考えます。自由な発想を尊重し、多様なストーリー展開を楽しむことで、創造性や柔軟な思考力を育みます。
これらの活動は、子どもたちの多様な興味や得意なことに合わせて展開することで、すべての子どもが自己肯定感を感じながら絵本の世界に関わることができるようになります。
まとめ
集団読み聞かせにおける子どもたちの多様な反応は、それぞれの子どもが持つ個性や内面の豊かさの表れです。これらの反応に一つひとつ丁寧に向き合い、受け止めること、そしてそれを読み聞かせやその後の活動に活かすことは、すべての子どもにとって安心できる絵本時間を創造し、多様性を理解し、他者への共感を育む貴重な機会となります。
読み聞かせを行う際は、完璧を目指すのではなく、子どもたちの反応に耳を傾け、柔軟に対応する姿勢を大切にすることが重要です。保育者が子どもたちの多様な感じ方や表現を認め、尊重することで、子どもたちは自分らしさを肯定され、他者との「ちがい」を自然に受け入れる心を育んでいくでしょう。絵本の時間は、子どもたちの世界を広げ、豊かな人間関係の基盤を築くための大切な一歩となるのです。