絵本で育む多様な言葉の感性:読み聞かせで引き出す子どもの語彙力と表現力
多様性がますます重要視される現代において、保育の現場でも様々な背景を持つ子どもたちが集まります。日々の保育において、言葉の発達や表現の仕方もまた多様であることに気づかれることも多いでしょう。絵本は言葉の宝庫であり、子どもたちが多様な言葉に触れる絶好の機会を提供してくれます。読み聞かせの時間を単に物語を楽しむだけでなく、言葉に対する感性を育み、語彙力や表現力を豊かにするための視点を持つことは、子どもたちのその後のコミュニケーション能力や思考力の土台を築く上で大変有益です。
多様な言葉の感性とは何か、そしてその重要性
「多様な言葉の感性」とは、標準的な言葉遣いだけでなく、感情の機微を表す豊かな言葉、状況を描写する比喩表現、音や様子を伝えるオノマトペ、地域特有の言葉、あるいは年代や文化によって異なる言葉のニュアンスなどを感じ取り、理解する能力を指します。
子どもたちがこうした多様な言葉に触れることは、以下のような点で重要であると考えられます。
- 共感力の向上: 登場人物の感情や状況が多様な言葉で表現されている絵本に触れることで、他者の内面をより深く理解し、共感する力が育まれます。
- 自己表現の豊かさ: 自分の気持ちや考えを表現する際に、絵本で出会った様々な言葉を使いこなせるようになります。これにより、より細やかで正確な自己表現が可能になります。
- 思考力の深化: 言葉は思考の道具でもあります。多様な言葉を知ることは、物事を多角的に捉え、深く思考するための基盤となります。
- 文化や背景の理解: 言葉遣いはその人の背景や文化を反映することがあります。多様な言葉に触れることは、様々な文化や人々が存在することを自然に学ぶ機会となります。
多様な言葉に触れる絵本の選び方
多様な言葉の感性を育むためには、意図的に様々な言葉遣いや表現が用いられている絵本を選ぶことが有効です。絵本選びの際には、以下の視点を参考にしてください。
- 豊かな感情表現: 喜び、悲しみ、怒り、驚きなど、様々な感情を単一の言葉だけでなく、比喩や行動を通して豊かに表現しているか。
- 多様な描写: 風景や状況、音などを、オノマトペや形容詞、副詞などを巧みに使って具体的に描写しているか。
- 登場人物の言葉遣い: 登場人物の年齢や背景によって、言葉遣いが変化しているか。丁寧な言葉、くだけた言葉、方言などが自然に織り交ぜられているか。
- 新しい言葉との出会い: 子どもにとって馴染みのない言葉や、普段あまり使わない言葉が含まれているか。
- 詩的な表現やリズム: 詩やわらべうたのような言葉のリズムや響きを楽しめるか。
予算に制約がある場合でも、工夫次第で多様な言葉に出会う機会は増やせます。
- 図書館の活用: 図書館には膨大な数の絵本があり、様々なテーマや言葉遣いの絵本を選ぶことができます。定期的に通うことで、幅広い絵本に触れる機会を設けられます。
- 一つの絵本からの多角的な読み取り: 一冊の絵本の中にも、感情表現、比喩、オノマトペなど、多様な言葉の側面が含まれていることがあります。一つの絵本を繰り返し読み、様々な言葉に注目することで、多角的な言葉の学びにつなげられます。
集団向けの読み聞かせで多様な言葉を引き出すテクニック
集団での読み聞かせにおいて、多様な言葉への気づきを促し、子どもたちの語彙力や表現力を引き出すための具体的なテクニックをいくつかご紹介します。
- 言葉のニュアンスを声で伝える: 登場人物の気持ちや状況に応じて、声のトーンや大きさ、話すスピードを変化させます。例えば、悲しい場面ではゆっくりと静かに、楽しい場面では明るく弾むように読むことで、言葉に含まれる感情やニュアンスをより分かりやすく伝えることができます。オノマトペは、その音や様子が伝わるように、声に抑揚をつけて読みましょう。
- 比喩や独特な表現に「立ち止まる」: 絵本の中に子どもにとって新しい言葉や比喩表現が出てきたら、すぐに読み進めず、少し間を置いたり、その言葉や表現について簡単な問いかけをしたりすることができます。例えば、「『心がポカポカする』って、どんな気持ちかな?」「『星がキラキラ笑っている』って、星が本当に笑っているのかな?」のように問いかけることで、子どもたちは言葉の意味や比喩について考えるきっかけを得られます。ただし、これは全ての言葉に対して行う必要はなく、文脈の中で特に印象的であったり、子どもたちの興味を引きそうだったりする言葉に絞るのが効果的です。
- 繰り返しのリズムを楽しむ: 繰り返しの言葉やフレーズが出てくる絵本では、そのリズムを楽しみながら読みます。子どもたちと一緒に声に出してみることも、言葉の響きやリズム感を育む上で有効です。
- 絵と言葉を結びつける: 絵本の絵は、言葉の意味を理解する上で重要なヒントになります。言葉だけでは分かりにくい表現でも、絵を見ることで意味が掴めることがあります。「この絵を見ると、どんな気持ちだと思う?」「〇〇って書いてあるけど、絵ではどんな風に見えるかな?」のように、絵と言葉を結びつける問いかけをすることで、言葉の理解を深めます。
- 子どもたちの反応を受け止める: 読み聞かせ中に子どもたちが発する言葉や質問、感想などを丁寧に聞き、受け止めます。絵本の内容から発展して、自分の経験や感じたことを言葉にする機会を意図的に設けることも、表現力を育む上で大切です。例えば、「〇〇くんは、この場面を見てどう思った?」や、「もし君だったら、どんな気持ちになる?」など、具体的な問いかけをすることで、子どもたちの内面にある言葉を引き出します。
これらのテクニックを実践する際には、子どもたちの集中力や反応を見ながら、無理なく進めることが重要です。全てのページで立ち止まったり、質問攻めにしたりするのではなく、絵本のリズムを大切にしつつ、言葉への意識をさりげなく促すことを心がけましょう。
読み聞かせから広がる言葉と表現の活動アイデア
絵本の読み聞かせは、それ自体で完結するだけでなく、様々な発展的な活動へとつなげることができます。絵本で触れた多様な言葉をさらに深め、子どもたちの表現力を引き出すための活動アイデアをいくつかご紹介します。
- 絵本言葉集め: 読み聞かせた絵本の中から、印象に残った言葉や初めて知った言葉を書き出したり、絵で描いたりする活動です。「楽しかった言葉」「不思議な言葉」「気持ちを表す言葉」など、テーマを決めて集めるのも良いでしょう。集めた言葉を使って、オリジナルの短い文を作ってみるのも面白いでしょう。
- 「もし〇〇だったら?」の言葉遊び: 絵本の登場人物や状況を変えて、「もし主人公が動物じゃなくて乗り物だったら、どんな言葉で話すかな?」「もし雨の日じゃなくて晴れの日だったら、どんな音がするかな?」のように、「もし〇〇だったら?」という問いかけをすることで、想像力を働かせ、多様な言葉や表現を考える機会を与えます。
- 感情表現のジェスチャー・言葉遊び: 絵本に出てきた感情(嬉しい、悲しい、怒っているなど)を表す言葉について話し合い、その感情を体や表情で表現するジェスチャー遊びをします。「〇〇な気持ちになった時は、どんな顔になるかな?」「どんな言葉で伝えたらいいかな?」のように、言葉と非言語的な表現を結びつけます。
- 物語の続きを考える言葉遊び: 絵本が読み終わった後、「この後、どうなるかな?」「登場人物はどんな言葉をかけるかな?」と問いかけ、子どもたちに物語の続きを言葉で考えてもらう活動です。複数の子どもたちのアイデアを聞き合うことで、多様な発想や表現に触れることができます。
- オノマトペ探し&音遊び: 絵本に出てくる様々なオノマトペ(例: わんわん、ざあざあ、きらきら)に注目し、実際にその音を出してみたり、その音を表すものを探したりする活動です。身の回りにある様々な音に耳を澄ませ、それを言葉(オノマトペ)で表現してみることも、言葉の感性を育みます。
これらの活動は、絵本の内容を深めるだけでなく、子どもたちが遊びの中で自然に言葉に親しみ、語彙を増やし、自分の考えや気持ちを多様な方法で表現する力を育むことにつながります。
まとめ
多様性絵本は、物語を通じて様々な人々の存在や価値観に触れる機会を提供するだけでなく、言葉の多様性に気づき、子どもたちの語彙力や表現力を育むための素晴らしい素材となります。読み聞かせの際に言葉のニュアンスに意識を向けたり、絵本から発展させた言葉や表現に関わる活動を取り入れたりすることで、子どもたちの言葉に対する感性は豊かになり、コミュニケーション能力の向上にもつながるでしょう。日常の保育の中で、絵本を通じた多様な言葉との出会いを大切にしていくことが、子どもたちの豊かな成長を支える一助となると考えられます。