一つの絵本から多様性を読み解く 集団読み聞かせのための多角的な視点
多様化するクラスと絵本の時間
保育現場では、子どもたちの背景がますます多様になっています。文化、家庭環境、発達の様子、興味や関心など、一人ひとりが異なる個性や経験を持って日々を過ごしています。こうした多様な子どもたち 모두にとって、安心でき、自分の存在が肯定されるような環境を整えることは、保育における重要な役割の一つです。
絵本の時間は、子どもたちの世界を広げ、様々な価値観や感情に触れる貴重な機会を提供します。しかし、クラスの多様性を考慮した絵本を全て揃えるには、絵本の選択肢や予算に限りがある場合も少なくないかもしれません。また、多様な子どもたちが集まる中で、どのように読み聞かせを行えば、 모두が絵本の世界に集中し、そこから何かを感じ取ることができるのか、という点も課題となることがあります。
この記事では、手元にある、あるいは比較的容易に入手できる「一つの絵本」から、多様性に関連する様々なテーマを読み解くための視点と、その読み解きを集団への読み聞かせに応用するための具体的なテクニックについてご紹介します。一つの絵本を深く、多角的に読み込むことで、限られたリソースの中でも、子どもたちの多様性への理解を育み、豊かな感情や思考を引き出す絵本の時間を作り出すヒントとなれば幸いです。
多様性とは何か、なぜ絵本で伝えるのか
ここで言う「多様性」とは、人種、文化、言語、性別、性的指向、障がいの有無、家庭環境（一人親、ステップファミリー、国際家族など）、経済状況、年齢、考え方や感じ方の違いといった、人間が持つ様々な属性や特性の総称です。子どもたちの世界においても、これらの多様な要素は存在し、互いに影響を与え合っています。
子ども時代に多様性に触れ、自分とは異なる人々や価値観があることを知る経験は、自己肯定感や他者への共感力、社会性の発達に深く関わります。多様なあり方を肯定的に捉えることは、子ども自身が「ありのままで良い」と感じることに繋がり、同時に、他者の違いを認め、尊重する姿勢を育みます。絵本は、物語や登場人物を通して、子どもたちがこれらのテーマに自然に触れ、感じ、考えるきっかけを与えてくれる有効なツールです。
一つの絵本から多様なテーマを読み解く視点
特定の「多様性絵本」として出版されたものでなくても、多くの絵本には多様性に関連する要素が隠されています。既存の絵本を多角的に読み解くための視点をいくつかご紹介します。
- 登場人物の描写:
- 外見（肌の色、髪の色、体格、服装など）に多様性はあるか。
- 性格や得意なことに違いはあるか。
- 感情表現の仕方は人それぞれか。
- 家族構成や生活環境はどのように描かれているか。
- 障がいや特別なニーズを持つ登場人物はどのように描かれているか。ステレオタイプな表現になっていないか。
- 物語の背景:
- 舞台となる場所の文化や習慣はどのように描かれているか。
- 登場人物が直面する出来事に対して、異なる反応や感じ方をしているか。
- 葛藤や問題解決の過程で、協力や対話が描かれているか。
- 異なる意見や価値観がどのように扱われているか。
- 使われている言葉や表現:
- 特定の文化や地域に特有の言葉や描写はあるか。
- 感情や状況をどのように表現しているか。
- 比喩や象徴的な表現は、多様な子どもにとってどのように受け取られるか。
これらの視点を持って絵本を読むことで、一見シンプルに見える物語からも、性別役割、文化の違い、感情の多様性、助け合いの精神、困難への向き合い方など、様々な多様性に関連するテーマを見出すことができます。園にある絵本や、身近な図書館の絵本を活用する際にも、こうした視点が役立ちます。
集団向け読み聞かせでの多角的な伝え方
一つの絵本から多様なテーマを読み解いたら、次にそれを集団への読み聞かせでどのように伝えるかを考えます。子どもたちが絵本の世界に引き込まれ、多様性について感じ、考えるための具体的なテクニックをご紹介します。
- 事前の準備と絵本の確認:
- 読み聞かせを行う前に、絵本を複数回読み込み、どのような多様性テーマが含まれているかを再確認します。
- 特に伝えたいテーマがあれば、そこに関連する場面や言葉を把握しておきます。
- クラスの子どもたちの状況（特定の背景を持つ子どもがいるか、最近の出来事など）を考慮し、絵本のどの側面に光を当てるかを検討します。
- 表現の工夫:
- 声のトーン、速さ、音量に変化をつけることで、物語の世界や登場人物の感情を豊かに表現します。特に、異なる登場人物の声色を変えることで、個性の違いを際立たせることができます。
- 表情やジェスチャーを活用し、物語の状況や感情を視覚的に伝えます。これにより、言葉だけで理解することが難しい子どもも絵本の世界に入りやすくなります。
- 多様性に関連する描写の箇所では、少し間を取る、ゆっくり読むなど、子どもたちがその場面について考える時間を作る工夫も有効です。
- 子どもたちへの適切な問いかけ:
- 読み聞かせの途中や後に、子どもたちの気づきや思考を促す「開かれた問いかけ」を取り入れます。「これは何かな？」といった知識を問う質問だけでなく、「この登場人物はどんな気持ちだったのかな？」「もしあなたが〇〇だったら、どうする？」「この絵を見て、どんなことを感じた？」など、子どもの想像力や共感を促す問いかけが有効です。
- 答えを急かさず、子どもたちの様々な反応や意見を丁寧に聞き、肯定的に受け止める姿勢が重要です。多様な解釈があることを認め、子どもたちが安心して発言できる雰囲気を作ります。
- 場所と時間の工夫:
- 集団が絵本に集中できるよう、落ち着いた環境を選びます。
- 子どもの年齢や集中力に合わせた時間設定を心がけます。長すぎず、短すぎず、子どもたちが満足感を得られる時間を目指します。
これらのテクニックを組み合わせることで、一つの絵本から引き出された多様なテーマが、子どもたちの心に深く響き、自分自身や他者について考えるきっかけとなります。
読み聞かせから発展させる活動アイデア
絵本の読み聞かせは、単に物語を聞かせるだけでなく、そこから様々な活動に発展させることができます。一つの絵本から読み解いた多様性テーマを、子どもたちの主体的な活動に繋げるアイデアをいくつかご紹介します。
- 絵や言葉で表現する:
- 絵本の中で印象に残った場面や登場人物、特に多様性に関連する要素（例：違う色の肌の友達、家族構成の違う家、異なる文化の食べ物など）を絵に描いたり、言葉で表現したりする機会を設けます。
- 「もしこの登場人物が〇〇だったら？」のように、物語の展開を想像して発表し合うのも面白いでしょう。
- 役割遊びや劇遊び:
- 絵本の登場人物になりきって、物語の一場面を演じてみます。これにより、異なる立場や感情を体験的に理解する助けとなります。
- 物語に登場しない多様な背景を持つ人物を加えて、新しい物語を創造するのも良いでしょう。
- 調べたり、話し合ったりする:
- 絵本に出てきた文化や習慣、特定の事柄について、子どもたちと一緒に簡単な図鑑やインターネットで調べてみます。
- 絵本のテーマに関連して、「自分たちのクラスの好きなところは？」「みんなの違うところ、同じところ」など、自分たちの身の回りの多様性について話し合う時間を持つことも大切です。
- 共生や助け合いをテーマにした遊び:
- 絵本のテーマが助け合いや共生に関わるものであれば、協力して一つのものを作り上げたり、困っている友達を助ける遊びを取り入れたりすることで、物語の内容を実生活に繋げることができます。
これらの活動は、絵本で触れた多様性のテーマをより深く理解し、自分事として捉えるための有効な手段となります。子どもたちの興味や発達段階に合わせて、柔軟にアレンジしてください。
まとめ
クラスの多様化が進む現代において、絵本は子どもたちの心に寄り添い、多様な世界を肯定的に捉えるための強力なツールです。限られた絵本や予算の中でも、一つの絵本を多角的な視点から読み解き、そこに潜む多様性テーマを見出すことで、絵本の可能性を最大限に引き出すことができます。
声のトーンや表情、適切な問いかけといった読み聞かせのテクニックを駆使し、子どもたちが絵本の世界に集中し、多様性について感じ、考える機会を意図的に設けることは、集団としての学びを深めます。そして、読み聞かせから発展する様々な活動は、子どもたちの気づきや表現を促し、多様性を認め合う豊かな関係性を育むことに繋がります。
ここでご紹介した視点やテクニックが、日々の保育実践の中で、すべての子どもたちにとって「ひろがる世界、絵本の時間」を創造するための一助となれば幸いです。