多様性絵本で育む「困難」への向き合い方:乗り越える力を引き出す読み聞かせと対話
絵本が拓く、多様な「困難」への扉
保育現場では、一人ひとりの子どもが様々な経験を積み重ねながら成長しています。その過程で、友達との関わりにおける小さなつまずき、新しいことに挑戦する際の戸惑い、あるいは自分自身の特性を受け入れることへの葛藤など、多様な「困難」や「壁」に直面することがあります。これらの経験は、子どもたちが社会性を身につけ、自己肯定感を育み、将来を生き抜くための内面的な力を培う上で重要な機会となります。
このような時、絵本は子どもたちの心に寄り添い、多様な困難への向き合い方を考えるきっかけを与えてくれます。絵本の世界を通じて、自分だけではないこと、困難を乗り越えるための多様な方法があることに気づき、勇気や希望を持つことができるのです。
この記事では、子どもたちが人生で直面するであろう多様な「困難」や「挑戦」をテーマにした絵本の選び方と、絵本の読み聞かせを通じて子どもたちの内面的な力を引き出し、対話を深める具体的なテクニックをご紹介します。保育現場での日々の実践において、絵本が子どもたちの成長を支える確かなツールとなるよう、実践的な視点から解説を進めてまいります。
多様性絵本と「困難」をめぐる理解
「多様性」という言葉は、性別、文化、障がい、家族構成など、様々な側面を含みます。そして、これらの多様性が、子どもたちが経験する困難と深く結びついている場合があります。例えば、自身の性別に対する葛藤、異なる文化を持つことへの戸惑い、障がいがあることによる物理的・社会的な壁、多様な家族構成ゆえの周囲との違いへの気づきなど、子どもが直面する困難は多岐にわたります。
困難や挑戦を描いた多様性絵本は、このような一人ひとりの子どもが抱えるかもしれない、あるいは将来出会うであろう困難を、安全な距離から疑似体験する機会を提供します。絵本の登場人物が困難にどう向き合い、どう乗り越えようとする姿を見ることで、子どもたちは共感したり、自分自身の経験と重ね合わせたり、新たな視点を得たりします。これは、自分自身の困難に立ち向かうためのヒントや勇気につながるだけでなく、他者が抱える困難への理解と想像力を育むことにもつながります。
困難や挑戦をテーマにした多様性絵本の選び方
子どもたちが直面する多様な「困難」や「挑戦」に寄り添う絵本を選ぶ際には、いくつかの視点が重要になります。保育現場で役立つ絵本選びのポイントをご紹介します。
- 描かれている「困難」の具体性: どのような種類の困難(例: 失敗、友達との喧嘩、新しい環境への適応、体の特徴、気持ちのコントロールなど)が具体的に描かれているかを確認します。子どもたちのクラスで実際に起こりうる、あるいは将来的に直面する可能性のあるテーマを選ぶと、より身近に感じやすくなります。
- 困難への向き合い方の多様性: 登場人物が困難に対してどのように考え、行動し、乗り越えようとするのか、その過程が多様に描かれているかを見ます。一つの正解だけでなく、様々な方法や考え方があることを示唆する絵本は、子どもたちの思考を深めます。時には、困難が完全に解決しないまま終わる絵本もあり、それもまた現実的な受容の姿勢を学ぶ機会となります。
- 共感できるキャラクターとストーリー: 子どもたちが感情移入しやすい、魅力的で親しみやすいキャラクターが登場するか、ストーリー展開が子どもたちの興味を引くものであるかも重要です。登場人物の感情の動きが丁寧に描かれている絵本は、子どもたちの共感を促します。
- 表現の適切さと年齢への適合: 描かれている困難が、その年齢の子どもにとって理解できるレベルであり、表現方法が適切であるかを確認します。過度に恐れを煽ったり、特定の価値観を押し付けたりするような内容は避けるべきです。
- 予算を考慮した絵本の探し方: 限られた予算の中で多様なテーマの絵本を取り入れるためには、工夫が必要です。
- 図書館の活用: 公共図書館には多様な絵本が揃っています。定期的に利用することで、様々なテーマの絵本に触れる機会を増やすことができます。
- 一つの絵本から多様なテーマを読み解く: 一見すると特定のテーマに絞られている絵本でも、読み方や問いかけ方次第で、複数の多様性や困難の側面に気づかせることができます。
- 絵本リストやレビューの活用: ウェブサイトや書籍で紹介されている多様性絵本リストやレビューを参考に、保育現場で役立つ絵本を探す効率を高めます。
これらの点を踏まえて絵本を選ぶことで、子どもたちが様々な「困難」について考え、学びを深めるための良い教材を見つけることができるでしょう。
「困難」に寄り添い、力を引き出す集団読み聞かせテクニック
多様な子どもたちが集まる集団での読み聞かせにおいて、困難や挑戦をテーマにした絵本から子どもたちの内面的な力を引き出すためには、いくつかの具体的なテクニックが有効です。
- 読み聞かせ前の準備:
- 絵本の内容を十分に理解し、登場人物の気持ちや物語の核心にある「困難」が何かを把握しておきます。
- 子どもたちが絵本の世界に入り込みやすいよう、落ち着いた環境を整え、子どもたちの注意を引きつけます。
- 声のトーンと緩急、表情やジェスチャー:
- 登場人物の感情や状況に合わせて、声のトーンや速さを変化させます。困難に直面している場面では、少しゆっくりめに、あるいは静かなトーンで読むことで、子どもたちがその感情に寄り添いやすくなります。
- 表情やジェスチャーも積極的に活用し、物語の世界観や登場人物の気持ちを豊かに伝えます。困難な表情や、それを乗り越えようとする決意の表情などを見せることで、子どもたちの共感を促します。
- 適切な「間」と問いかけ:
- 登場人物が困難に直面した場面や、重要な決断をする場面などで、意図的に「間」を取ります。これにより、子どもたちが物語の展開や登場人物の気持ちを想像する時間を持ち、内省を深めることができます。
- 読み聞かせの途中で、子どもたちの共感や思考を引き出す問いかけを挟むことも有効です。「この子、どんな気持ちかな?」「どうしてこう思ったのかな?」「もし自分がこの子だったら、どうするかな?」といったオープンエンドな問いかけは、子どもたちが自分の言葉で考えや気持ちを表現する機会を与えます。ただし、問いかけは物語の流れを妨げないよう、自然なタイミングで行い、答えを急かさずに子どもたちの多様な反応を受け止めることが大切です。
- 子どもたちの多様な反応の受容:
- 困難をテーマにした絵本に対し、子どもたちは様々な反応を示します。感情をそのまま表に出す子もいれば、静かに考え込む子、質問をする子もいます。どのような反応であっても、それを否定せず、受け止める姿勢を示すことが、子どもたちの安心感につながります。
これらのテクニックを組み合わせることで、単に物語を聞かせるだけでなく、子どもたちが絵本を通じて自分自身の内面と向き合い、他者の困難にも心を寄せ、多様な困難を乗り越える力を育む読み聞かせの時間とすることができます。
絵本から広がる「困難を乗り越える」活動アイデア
絵本の読み聞かせは、物語の世界に触れるだけでなく、そこから得た気づきや学びをさらに深めるための様々な活動に発展させることができます。困難や挑戦をテーマにした絵本の読み聞かせ後におすすめの活動アイデアをいくつかご紹介します。
- 登場人物への応援メッセージ: 絵本を読んだ後、困難に立ち向かった登場人物に向けて、子どもたちが「がんばったね」「こうしたらもっといいかも」といった応援のメッセージや絵を描く活動です。登場人物の気持ちを想像し、共感する力を育みます。
- 「もしこうだったら?」対話: 絵本の中の困難な場面について、「もし登場人物が〇〇しなかったら?」「もし違う場所だったら?」など、「もしこうだったら?」という問いかけを基に子どもたちと対話します。これにより、物事には様々な側面や解決策があること、そして自分の行動が結果に影響することを考える機会となります。
- 自分の中の「できたこと」を見つける: 絵本で登場人物が困難を乗り越えたように、子どもたち自身の「できたこと」や「がんばったこと」を振り返る時間を作ります。例えば、「今日の給食で苦手なものを一口食べられた」「友達と仲直りできた」「難しいパズルを完成させた」など、小さな成功体験も肯定的に捉え、自己肯定感を育みます。発表する機会を設けることで、互いの頑張りを認め合う雰囲気も醸成されます。
- 「こまったとき」の絵を描く: 絵本の内容に触発され、子どもたちが「こまったとき」にどのような気持ちになるか、どのように対処しているかなどを絵に描く活動です。絵を通じて自分の気持ちを表現し、保育者や友達と共有することで、困難な状況を乗り越えるための多様な方法や、助けを求めることの大切さに気づくことがあります。
これらの活動は、絵本で得た学びを子どもたち自身の現実世界での経験と結びつけ、困難への向き合い方をより深く理解し、実践する力を育むことを目指しています。遊びや表現活動を通じて、子どもたちは楽しみながら、生きる上で大切な力を培っていくことができるのです。
まとめ
子どもたちの成長の過程には、多様な「困難」や「挑戦」がつきものです。これらの経験は、子どもたちが自分自身の力で未来を切り拓いていくための、かけがえのない糧となります。
多様性をテーマにした絵本は、子どもたちがこのような困難に寄り添い、共感し、そして乗り越えるための内面的な力を育む上で、非常に有効なツールです。慎重に選ばれた絵本と、子どもたちの心に響く読み聞かせテクニック、そして絵本から発展させる創造的な活動を通じて、子どもたちは「困難なことがあっても大丈夫」「きっと乗り越えられる」という確信を育んでいくことができるでしょう。
保育現場での日々の実践が、子どもたちの豊かな感性と、困難に立ち向かう確かな力を育む一歩となることを願っております。