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多様な家族の形を描いた絵本:選び方と子どもたちの共感を育む読み聞かせ方

Tags: 多様性絵本, 読み聞かせ, 保育, 家族, 共感

絵本を通じた多様な家族の形の理解

保育現場において、子どもたちが持つ背景は多様であり、それは家族の形においても同様です。両親と暮らす家庭、一人親家庭、祖父母との同居、ステップファミリー、里親家庭、同性パートナーのいる家庭など、様々な家族の形が存在します。このような多様な家族の形があることを子どもたちが理解し、自分や他者の家族を肯定的に捉えることは、自己肯定感や他者への共感、そして将来的な社会への適応力を育む上で非常に重要です。

しかし、多様な家族の形について、子どもたちにどのように伝えれば良いか、適切な絵本をどのように選べば良いか、また集団での読み聞かせでどのように扱うべきかといった課題を感じることもあるかもしれません。この記事では、多様な家族の形を描いた絵本の選び方、子どもたちの心に響く読み聞かせのテクニック、そして読み聞かせから発展させられる活動アイデアについて解説します。

なぜ多様な家族の形を知ることが重要なのか

子どもたちは、自分自身の家族の形が当たり前だと感じがちです。多様な家族の形について知ることは、まず「自分とは違う存在がいること」に気づく第一歩となります。これは、性別、文化、障がいなど、あらゆる多様性を理解する基礎となります。

多様な家族を描いた絵本に触れることで、子どもたちは以下のような学びを得ることができます。

これらの学びは、子どもたちが将来、多様な社会で他者と協力し合いながら生きていくための土台となります。

多様な家族を描いた絵本の選び方

多様な家族の形をテーマにした絵本を選ぶ際には、以下の点に注目することをおすすめします。

  1. 肯定的な表現であるか: 特定の家族の形を「普通ではない」「特別だ」といった視点から描くのではなく、多様な家族の形がそれぞれ自然で温かいものとして肯定的に描かれている絵本を選びましょう。悲壮感や同情を誘うような表現は避けるべきです。
  2. 年齢や発達段階に合っているか: 抽象的な表現が多い絵本は、理解が難しい場合があります。子どもたちの年齢や発達段階に合わせて、物語の内容や絵の表現が分かりやすいものを選びましょう。
  3. ステレオタイプに陥っていないか: 登場人物が特定の家族形態の代表であるかのように描かれていたり、性別役割分業などのステレオタイプを強化していないか確認します。個々の家族の多様性を尊重した内容が望ましいです。
  4. 物語の魅力: テーマが良いだけでなく、絵が魅力的で、物語として純粋に面白いと感じられる絵本は、子どもたちの興味を引きつけ、自然な形で多様性への理解を促します。
  5. 予算とリソース: すべてのテーマについて絵本を揃えるのは予算的に難しいかもしれません。公立図書館を活用したり、インターネット上で多様な家族について紹介している絵本リストを参考にしたりするのも有効です。一つの絵本から、登場人物の家族構成だけでなく、彼らの暮らし方や価値観など、多様な側面に目を向けて読み解くこともできます。

多様な家族の絵本の読み聞かせテクニック

集団への読み聞かせで、多様な家族の形を描いた絵本を扱う際には、子どもたちが安心して耳を傾けられる環境作りと、内容への配慮が重要です。

  1. 事前の準備と心構え: 読み手である保育士自身が、様々な家族の形について理解を深め、自分自身の持つかもしれない固定観念に気づくことが大切です。絵本の内容について、クラスの子どもたちの状況(特定の家族形態の子どもがいるかなど)を考慮し、どのように伝えるか計画を立てましょう。難しい言葉や概念があれば、子どもたちに分かりやすい言葉で説明する準備をしておきます。
  2. 温かい雰囲気作り: 読み聞かせを始める前に、「今日は〇〇という絵本だよ。どんなお話かな」などと、リラックスした雰囲気を作ります。多様な家族が登場することについて、事前の説明で過度に強調する必要はありません。あくまで物語の一部として自然に紹介します。
  3. 感情豊かな読み聞かせ: 声のトーン、速さ、表情、ジェスチャーなどを効果的に使い、絵本の世界観を伝えます。特に、多様な家族が幸せそうに暮らす場面では、温かく肯定的なトーンで読むことで、「いろいろな家族の形があるけれど、どれも素晴らしいね」というメッセージを自然に伝えることができます。
  4. 子どもたちの反応を受け止める: 読み聞かせ中に、子どもたちが絵本の家族構成を見て「あれ?」と思ったり、何か質問したりすることがあるかもしれません。そのような反応を否定したり遮ったりせず、「どう思ったかな?」「どんなことが気になったかな?」と優しく問いかけ、子どもたちの感じたこと、考えたことを安心して表現できる機会を作りましょう。
  5. 対話を通じた理解の促進: 読み聞かせの後、絵本の内容について子どもたちと一緒に振り返る時間を持つことができます。「絵本に出てきた家族はどんな家族だったかな?」「みんなの家族と似ているところ、違うところはあるかな?」などと問いかけることで、子どもたちは絵本の内容を自分事として捉え、多様性への理解を深めることができます。ただし、特定の家族構成の子どもに個人的な情報を尋ねるようなことは絶対に避け、あくまで絵本の内容に沿った対話に留めます。
  6. プライバシーへの配慮: 読み聞かせやその後の活動において、子どもやその家族のプライベートな情報(家族構成など)をクラス全体で共有させるようなことは避けなければなりません。あくまで絵本の世界を通じた学びであることを意識し、個々の家庭の状況に踏み込みすぎない配慮が重要です。

絵本から広がる活動アイデア

多様な家族の形を描いた絵本の読み聞かせは、様々な活動へと発展させることができます。

これらの活動を行う際にも、子どもたちのプライバシーに十分に配慮し、すべての家族の形が肯定されるような温かい雰囲気で行うことが重要です。

まとめ

多様な家族の形を描いた絵本は、子どもたちが世界の多様性を知り、自分自身や他者を大切にする心を育むための貴重なツールです。適切な絵本を選び、子どもたちの心に寄り添う読み聞かせを行うことで、子どもたちは様々な家族の形があることを自然に受け入れ、共感力や自己肯定感を育んでいくことができます。

保育現場での日々の実践において、これらの絵本や読み聞かせの工夫が、すべての子どもたちにとって安心できる、温かい環境作りの一助となれば幸いです。多様な家族の形を知ることは、違いを認め合い、共に生きる社会を築くための大切な学びとなるでしょう。